多汗症(手の汗)治療は山本クリニック 本文へジャンプ

当院はT4遮断を行っていません

代償性発汗の対策としてT4遮断(切断)を推奨している施設があります.

しかしながら、

1.  T4遮断(切断)で代償性発汗が予防・改善することはありません。

2.  手の発汗減少効果が乏しいか あるいは得られない。





T4単独の遮断(切断)の問題点


この遮断(切断)では、多汗症はきちんと治りません。

ほんの少し汗が減るだけです。

抑えられるのは、代償性発汗ではなく

効果のほうです。


すなわち確実な治療とはいえず、

手術の目的がはたせません。


詳細な解説


図1は胸部の解剖の概略図であり、本説明に必要な各所の解剖学的名称です。

図2は手の発汗神経を茶色・緑・紫・黄色・赤で示しています。
手の汗をつかさどる交感神経が脊髄から出ます。
同じ神経ですが脊髄から出た時点で脊髄神経と名前を
変えます。その神経は肋骨に接した状態で交感神経節に到達します。

肋骨と肋骨の間に位置する脊髄神経は、肋間神経と名前を変えますが、
元々は脊髄神経と同じ神経であり、
手の発汗をつかさどる神経だけでなく顔面や
頸部・体幹・腋窩などの発汗や感覚神経・骨格筋への運動神経などが含まれています。

T2とかT3の略称は、第2肋間神経あるいは第三肋間神経に3含まれている交感神経成分の意味です。

手の汗をつかさどる神経(T2からT5)は交感神経幹に走行を変え星状神経節に向かいます。
手の発汗を含め、体のすべての発汗は、汗腺(汗を作る装置)に交感神経が信号をあたえることで生じます。



図3
手の発汗機能に関係した交感神経(T2-6)の活動量が多く、
手の発汗信号が多量に発生することが多汗症の病態です。


ETSは、手の汗をとめるためには、手の発汗をつかさどる交感神経をブロックし、発汗を促す神経の信号を止めるという方法です。













図4は一般的に行われているT2からT6までの手術処置部を示しています。図4を見て容易に判りますが、

T7には手の発汗に関係する交感神経成分はないのでT7を行っても手の汗は1ミリも変化しません。

T6は赤で示された交感神経の働きがブロックされるので、赤の交感神経が手掌の汗腺に届いていた部分のみ発汗が停止します。

T5は
黄色で示された交感神経の働きがブロックされるので、黄色の交感神経が手掌の汗腺に繋がっていた部分のみ発汗が停止します。
そのためT6よりT5のほうが発汗停止をする汗腺が多くなりその分効果が強く表れます。

T4ではT5に加え、
で示した交感神経がブロックされさらに発汗停止する汗腺が多くなります。

T3ではT4に加え、
で示した交感神経がブロックされさらに発汗停止する汗腺が多くなります。

T2ではT3に加え、
茶色で示した交感神経がブロックされさらに発汗停止する汗腺が多くなります。





そのため、T2からT6まですべてが多汗症を引き起こしている異常興奮をしていた交感神経であれば、
効果はT2>T3>T4>T5>T6となります。

実際の治療結果は次のようになります。
グレード3の多汗症の患者様の切除部位別の残存発汗量です。

発汗量が3.4mg/cm/分はグレード3の中でも多い患者様であり、多汗症として最大量の値です。
したがって、T2からT6までの交感神経がすべて異常興奮し活動している常態と考えられます。

発汗量は
青の棒グラフで示しているので、大きいほど手術後の汗も止まっていないことを表しています。



このように、どの部分をブロックするかで効果が変わってきます。

手の多汗症にもたくさんの汗したたり落ちるグレード3から、手が湿る程度で汗がしたたり落ちないグレード1のように程度もいろいろです。

どうして、発汗量に違いがあるのか考察します。
図3と図4で多汗症の原因として交感神経のT2からT6までに異常興奮があることを示しました。

図5ではT6を切除したことでおおむね0.68mg/cm/分減少します。
T6が最大に異常興奮した場合に発揮される多汗は0.69mg/cm/分と判ります。
同様にT5は0.7、T4も0.7、T3ほぼ1.0、T2は0.3と想定されます(図6)。





T2からT6までそれぞれの部位の手術を行う事で
T2からT6の各交感神経成分の発汗量が分かりました。

それではグレード3程の発汗量が無いグレード2やグレード1の患者様はどうなっているのかというと
T2からT6までの5本すべての交感神経が異常興奮しているのではなく、
内4本であったり3本であったり2本など交感神経が異常興奮を起こすものの
5本全てではなく正常が保たれている交感神経も存在すると考えられます。

要するに、T2とT4が異常興奮すれば、おおむね発汗量が1.0mg/cm/分が最大値となるグレード1となり、
T2とT3であれば1.3〜1.4mg/cm/分が最大値となるグレード1と考えられます。

T2T3T6が異常興奮した場合、発汗量は2.0から2.1mg/cm/分が最大値となるグレード2と考えられます。

ここで治療として、ETSをT4を行った場合、次の事例を考えます。

事例 1.  T2とT3が異常興奮を起こしている1.3〜1.4mg/cm/分が最大値となるグレード1に対して
T4切除を行なった。   

事例 2. T2T3T6が異常興奮したグレード2(発汗量は2.0から2.1mg/cm/分が最大値)に対して
T4切除を行なった。   。

事例 3. T2からT6が異常興奮したグレード3(発汗量は3.4から3.5mg/cm/分が最大値)に対して
T4切除を行なった。   。

結果は、上の図を見れば計算できます。

事例 1は図6の
茶色に異常興奮があるが、T4切除では茶色にはブロックがはいらないので効果は全く得られない。

事例 2. 図6の
茶色緑・に異常興奮があるが、T4切除では赤の交感神経のみブロックを受け0.68mg/cm/分の発汗量の減少があるが、茶色にはブロックがはいらないので(発汗量は1.3から1.4mg/cm/分)が残り正常にはならない。

事例 3. T2からT6が異常興奮している場合、T4では
黄色の3本がブロックされるが、茶色はブロックされずに残るのでグレード1程度(発汗量は1.3から1.4mg/cm/分)に手の汗が残ります。

グレード1でT4からT6に異常興奮のある患者だけがT4de改善し宇野であって、すべての患者にT4では有意義な結果をもたらすことはないのです。

「T4はなんちゃって手術」といわれる所以です。


切除部位と代償性発汗の関連については
当院における多汗症教室で詳しく説明しています。

患者様の不安・心配事に対応する内容をご説明しています。

(平成29年11月17日更新)



以下は平成29年11月16日以前の記事です。
T4単独の遮断(切断)やT5単独の遮断(切断)では代償性発汗が

最小になるというホームページがありますが、

決して「最小」とか「許容範囲以内」

とかではありません。



手のひらの汗が止まるのは

手術後短期間しかありません。

結局、繰り返し手術を受けることになります。


国際学会においても

T4遮断(切断)の発表はありますが

長期効果に劣り

代償性発汗軽減の有効策とは

考えられていません。

従って、低い評価となっています。

手の汗が再び出るようになっても

代償性発汗はもとに戻りません。



顔面の汗が止まることと

代償性発汗の程度

とは関係しません



顔面頭部の多汗症のETSを受けた

患者さまのなかには、顔の汗が止まったにも関わらず

代償性発汗の出ない人もいます。

顔面頭部の多汗症の患者さまの顔の汗を治療して

はいけないというのでもありません。

当院のリバーサル手術で

代償性発汗が治った場合でも

顔の汗が収まった状態の

患者様が多数いらっしゃいます。





1990年代後半に

小生も神戸大学勤務時代に

試験的にT4単独遮断(切断)を行った事があります。

結果的に代償性発汗は

決して見過ごされるものではなく、

さらに効果も乏しいため、

すみやかに終了としました。

以来、現在も行っていません。


代償性発汗はT2の遮断(切断)を行った患者に

確率的にも最も多く出現し(30%)

激しい事例が含まれていることに

異論はありません。


以来、T4単独の遮断(切断)では切除量も少なく

代償性発汗が極小といった錯覚がされやすい

風潮がうまれました。


当院の代償性発汗のホットラインでは

最近になり、T4でも代償性発汗により日常生活に

不具合をきたした患者さまからの報告

が増えてきております。

T4遮断(切断)を受けた患者様が増加している

ことが原因と思われます。



T4遮断(切断)の患者の術後の特徴は

1. 手の汗が十分にとまらない。

  (日常生活に不便が残る)

2. 他の箇所(T2やT3)の遮断(切断)とは異なり

  代償性発汗として
顔面の汗が増える事例がある。

  (この顔の多汗は味覚性の発汗とは異なり

  温熱性発汗・精神性発汗の様相がある。)

3. 他の箇所(T2やT3)の遮断(切断)とは異なり

  T4遮断(切断)後に
著しい赤面症となる事例がある。


T4遮断(切断)で代償性発汗が少なくなる

  (あるいは最小になる)

という意味は、

代償性発汗(日常生活に不便をきたすレベル)

の出現する率が

T2>T3>T4
ということです。


代償性発汗の程度に関しては、現段階で

T4が少ないといいきれるものではありません。

以下に特徴的な事例を示します。


他院において代償性発汗が少ないという説明をうけ

T4切除をうけた。

しかし、手の多汗はほとんど止まらなかった。

代償性発汗は顔と背中・胸に驚くほど多量になった。

せめて、手の汗でもしっかり止めるために

再手術でT3の処置を行った。

手の汗はT4遮断(切断)後とは比べ物にならない

ぐらい良く止まった。

代償性発汗の背中や胸の汗の量は変化がなかった。




この患者様の経過は、

T4遮断(切断)の代償性発汗が

T3遮断(切断)と同じであることを示しており

T4の遮断(切断)が代償性発汗を少なくしているのでもなく

発汗抑制効果と代償性発汗の程度には

関係はないということを

示しています。



代償性発汗は、交感神経の遮断(切断)によって

発生します。

どの部分の交感神経節が代償性発汗を呼び起こすか

については、様々な個体差があります。


代償性発汗を引き起こしている交感神経節を

切除することで代償性発汗は消失します。



当院では、代償性発汗の治療経験を通じて

よくよくその問題点を承知しております。

どの箇所の切除をするにしろ、

患者様と医療者はともに

片側の手術の後、自己責任において

経過をよくよく見極める

必要があります。


そうでなければ、術前の期待に

反して、想定以上の代償性発汗に

悩まされることになります。







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